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大学への数学の話題が多めの雑談Blog(予定)

学力コンテスト 2018年1月号6番

こんにちは.飜車魚です.
JAXA学生 Advent Calendar 2020にお誘いいただき,3回目の投稿となります.
毎回同じような話題で申し訳ないですが,今回も大学への数学(東京出版) 学力コンテストに出題した問題のお話を書いておきたいと思います.

 

 

今回の問題

さて,今回題材にする問題を紹介しましょう.

(1) 極方程式 r=\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-\cos\theta}で表される曲線 Cを,直交座標 (x,y)に関する方程式で表し, Cで囲まれる部分の面積を求めよ.
(2)  \rm Oを原点とする xyz空間に, \rm Oを中心とする xy平面上の半径 1の円を底面とし, {\rm A}\left(0,0,2\sqrt{2}\right)を頂点とする円錐がある.この円錐の側面のうち,平面 z=-2x+2に関して \rm Aの側にある部分の面積を求めよ.
(大学への数学2018年1月号 学力コンテスト6番)
 

私が作って出題した問題です.公式の解答は大学への数学2018年3月号に掲載されています.

(2)を解いてみてもらいたくて作った問題です.
解く過程で,楕円の極座標表示を知らないと解き難い場面が出てくるので,楕円の極座標表示をとりあえず知っておいてもらうために(1)を付け加えました.

(2)の円錐と,それと平面 z=-2x+2の交線は下図のようになります.
 \rm P \rm Qは解答の中で設定している点です.

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円錐の側面を展開したときに,側面のうちこの交線のより上になっている部分の領域の面積を求めますが,展開図上でこの交線がどのような図形になるかイメージできるでしょうか.

 解答

とりあえず解答です.

(1)
 r=\sqrt{x^2+y^2},r\cos\theta=xから,

 r=\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-\cos\theta}\ \Longleftrightarrow\ \sqrt{2}r-r\cos\theta=1
\qquad \Longleftrightarrow\ \sqrt{2(x^2+y^2)}=1+x

両辺2乗して,
 2x^2+2y^2=1+2x+x^2 かつ  1+x\geqq 0
 \qquad\Longleftrightarrow\ \displaystyle\frac{(x-1)^2}{2}+y^2=1 かつ  x\geqq -1
楕円 \displaystyle\frac{(x-1)^2}{2}+y^2=1上の点は x\geqq -1を満たす.よって Cの方程式は,
 \displaystyle\frac{(x-1)^2}{2}+y^2=1

 Cは長半径 \sqrt{2},短半径 1の楕円なので,面積は
 \pi\cdot\sqrt{2}\cdot 1=\sqrt{2}\pi

(2)

円錐の底面の円周上に点 {\rm P}(\cos\theta, \sin\theta, 0)をとると, \overrightarrow{\rm AP}=\left(\cos\theta, \sin\theta, -2\sqrt{2}\right)となる.直線 \rm APと平面 z=-2x+2の交点を \rm Qとすると, 0\leqq k\leqq 1をみたす実数 kを用いて, \overrightarrow{\rm AQ}=k\overrightarrow{\rm AP}と表せる.すると,
 \overrightarrow{\rm OQ}=\overrightarrow{\rm OA}+\overrightarrow{\rm AQ}=\overrightarrow{\rm OA}+k\overrightarrow{\rm AP}
 \qquad=\left(0,0,2\sqrt{2}\right)+k\left(\cos\theta,\sin\theta,-2\sqrt{2}\right)
 \qquad=\left(k\cos\theta,k\sin\theta,2\sqrt{2}(1-k)\right)

Qは平面 z=-2x+2上なので,代入して,
 2\sqrt{2}(1-k)=-2k\cos\theta+2
 k= \displaystyle\frac{\sqrt{2}-1}{\sqrt{2}-\cos\theta}


よって, {\rm AP}=\sqrt{1^{2}+(2\sqrt{2})^{2}}=3より,AQの長さは,
 {\rm AQ}=k{\rm AP}= \displaystyle\frac{3(\sqrt{2}-1)}{\sqrt{2}-\cos\theta}\cdots


円錐の側面を, \rm A {\rm B}(1,0,0)を結んだ線分のところから切り開いた展開図を考える.展開図の扇形の半径 3,弧の長さ 2\piなので,中心角の大きさは \displaystyle\frac{2}{3}\pi.下の展開図において, \angle{\rm BAP}=\varphiとすると, \stackrel{\Large\mbox{$\frown$}}{\rm BP}=\thetaなので, \theta=3\varphi

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求める面積 Sは,線分 \rm AQの通過範囲の面積なので,①から,
 S=\displaystyle\int_{0}^{\frac{2}{3}\pi}\displaystyle\frac{1}{2}{\rm AQ}^2 d\varphi=\displaystyle\int_{0}^{\frac{2}{3}\pi}\displaystyle\frac{1}{2}\left\{\displaystyle\frac{3(\sqrt{2}-1)}{\sqrt{2}-\cos\theta}\right\}^2 d\varphi
 \varphi=\displaystyle\frac{\theta}{3}なので, d\varphi=\displaystyle\frac{d\theta}{3}
また, \varphi: 0\to\displaystyle\frac{2}{3}\piのとき, \theta: 0\to2\pi
 S=\displaystyle\int_{0}^{2\pi}\displaystyle\frac{1}{2}\left\{\displaystyle\frac{3(\sqrt{2}-1)}{\sqrt{2}-\cos\theta}\right\}^2\displaystyle\frac{d\theta}{3}
 \qquad=3\left(3-2\sqrt{2}\right)\int_{0}^{2\pi}\displaystyle\frac{1}{2}\left(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-\cos\theta}\right)^2 d\theta

 \displaystyle\int_{0}^{2\pi}\displaystyle\frac{1}{2}\left(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-\cos\theta}\right)^2 d\thetaは,(1)の曲線 Cによって囲まれる面積である.よって,(1)から,
 S=3\left(3-2\sqrt{2}\right)\cdot \sqrt{2}\pi=\left(9\sqrt{2}-12\right)\pi

答え

(1)  \displaystyle\frac{(x-1)^2}{2}+y^2=1 \pi\cdot\sqrt{2}\cdot 1=\sqrt{2}\pi
(2)  S=\left(9\sqrt{2}-12\right)\pi

 

解説というか雑談

最初の着想

この問題は,「円錐の展開図上での直線は,円錐上で平面上に存在するのか」ということを考えてみたくて作った問題です.
イメージとしては,円錐の展開図の扇形に下図のように直線を引いてみて,それを円錐として組み立てたときに,空間上でこの線は平面に乗るような曲線になるのかということです.

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結論からいうと,空間上でこの線は平面に乗りません.この直線上から何点か選んで,それが空間内でどの座標になるかを調べてみれば,それらの点が全て乗るような平面は作れないことがすぐわかると思います.

これは,自分が高校生のとき,このような線が平面に乗るだろうとなんとなく安易に考えてしまって誤答してしまった経験から思いつきました.
確か,そのまま上図のような直線は円錐上で平面上に存在するかどうかを調べる問題だったと思いますが,平面に乗るという間違った結論を示そうとして,すごく苦労してしまったことを覚えています.
そうやって間違えた問題は結構記憶に残っているので,それを題材に何か議論できないかと考えてみました.

ただ,上図のような直線が円錐上に作る図形はちょっと難しくて,高校数学としてちょうどいい問題が思いつかなかったので「円錐を平面で切ったときに,その断面は展開図上で直線になるのかどうか」という問題に変えてみました.
今回の問題でわかると思いますが,平面で切った断面が解答の展開図のようにぐねぐねした曲線になります.
これが囲む面積を求めてみたら高校数学の計算としては難易度としてちょうどよかったので,このような問題になりました.
途中で,定積分被積分関数が楕円の極座標表示と同じような形をしていることを使う場面がありますが,応募者は楕円の極座標表示を知らない人もいると思ったので,気づいてもらえるように(1)を付け加えました.

(1)を使わない別解

ちなみに,(1)のように楕円の極座標表示を使わないやり方もありました.

 (2)

円錐の側面の方程式は,
 x^{2}+y^{2}=\left(1-\displaystyle\frac{z}{2\sqrt{2}}\right)^{2}
これと,平面 z=-2x+2の交線を考えると,
 x^{2}+y^{2}=\left(1-\displaystyle\frac{-2x+2}{2\sqrt{2}}\right)^{2}
 \therefore \left\{x-\left(\sqrt{2}-1\right)\right\}^{2}+2y^{2}=\left(2-\sqrt{2}\right)^{2}\cdots
円錐の側面と平面z=-2x+2の交線の xy平面への正射影は,②の方程式で表される楕円になる.この楕円を Dとする.

円錐の側面と平面 z=-2x+2の交線上に点 \rm Qをとり, \rm Qから xy平面に下ろした垂線の足を \rm Hとすると, \rm Q D上にある.円錐の母線と xy平面のなす角を \alphaとすると,母線の長さが 3なので, \cos\alpha=\displaystyle\frac{1}{3}

よって,求める面積 Sは,楕円 Dの面積の \displaystyle\frac{1}{\cos\alpha}=3倍. Dは長半径 2-\sqrt{2},短半径 \sqrt{2}-1なので,
 S=3\left(2-\sqrt{2}\right)\left(\sqrt{2}-1\right)\pi
 \qquad=\left(9\sqrt{2}-12\right)\pi

 
応募者の解答から,自分の想定していなかった解法があることを知れるのも,出題してみる面白さの一つですね.
 

あまり関係ない話

この年のセンター試験では,有名角でない角度( 144^{\circ})をラジアン表記に直す問題が出ていたと思います.有名角についてラジアン表記を暗記して,ラジアンへの変換をしていた受験生が多いらしく,「 144^{\circ}なんて覚えてない」みたいに話題になっていたような気がします.
そういう受験生は,今回の, \stackrel{\Large\mbox{$\frown$}}{\rm BP}=\thetaから \theta=3\varphiという関係を得るというのも,もしかしたらすぐに納得できないのかもしれないなあと思って,当時の解説ではそこらへんを丁寧めに書いたと思います.