日日の雑談

大学への数学の話題が多めの雑談Blog(予定)

学力コンテスト 2018年1月号6番

こんにちは.飜車魚です.
JAXA学生 Advent Calendar 2020にお誘いいただき,3回目の投稿となります.
毎回同じような話題で申し訳ないですが,今回も大学への数学(東京出版) 学力コンテストに出題した問題のお話を書いておきたいと思います.

 

 

今回の問題

さて,今回題材にする問題を紹介しましょう.

(1) 極方程式 r=\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-\cos\theta}で表される曲線 Cを,直交座標 (x,y)に関する方程式で表し, Cで囲まれる部分の面積を求めよ.
(2)  \rm Oを原点とする xyz空間に, \rm Oを中心とする xy平面上の半径 1の円を底面とし, {\rm A}\left(0,0,2\sqrt{2}\right)を頂点とする円錐がある.この円錐の側面のうち,平面 z=-2x+2に関して \rm Aの側にある部分の面積を求めよ.
(大学への数学2018年1月号 学力コンテスト6番)
 

私が作って出題した問題です.公式の解答は大学への数学2018年3月号に掲載されています.

(2)を解いてみてもらいたくて作った問題です.
解く過程で,楕円の極座標表示を知らないと解き難い場面が出てくるので,楕円の極座標表示をとりあえず知っておいてもらうために(1)を付け加えました.

(2)の円錐と,それと平面 z=-2x+2の交線は下図のようになります.
 \rm P \rm Qは解答の中で設定している点です.

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円錐の側面を展開したときに,側面のうちこの交線のより上になっている部分の領域の面積を求めますが,展開図上でこの交線がどのような図形になるかイメージできるでしょうか.

 解答

とりあえず解答です.

(1)
 r=\sqrt{x^2+y^2},r\cos\theta=xから,

 r=\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-\cos\theta}\ \Longleftrightarrow\ \sqrt{2}r-r\cos\theta=1
\qquad \Longleftrightarrow\ \sqrt{2(x^2+y^2)}=1+x

両辺2乗して,
 2x^2+2y^2=1+2x+x^2 かつ  1+x\geqq 0
 \qquad\Longleftrightarrow\ \displaystyle\frac{(x-1)^2}{2}+y^2=1 かつ  x\geqq -1
楕円 \displaystyle\frac{(x-1)^2}{2}+y^2=1上の点は x\geqq -1を満たす.よって Cの方程式は,
 \displaystyle\frac{(x-1)^2}{2}+y^2=1

 Cは長半径 \sqrt{2},短半径 1の楕円なので,面積は
 \pi\cdot\sqrt{2}\cdot 1=\sqrt{2}\pi

(2)

円錐の底面の円周上に点 {\rm P}(\cos\theta, \sin\theta, 0)をとると, \overrightarrow{\rm AP}=\left(\cos\theta, \sin\theta, -2\sqrt{2}\right)となる.直線 \rm APと平面 z=-2x+2の交点を \rm Qとすると, 0\leqq k\leqq 1をみたす実数 kを用いて, \overrightarrow{\rm AQ}=k\overrightarrow{\rm AP}と表せる.すると,
 \overrightarrow{\rm OQ}=\overrightarrow{\rm OA}+\overrightarrow{\rm AQ}=\overrightarrow{\rm OA}+k\overrightarrow{\rm AP}
 \qquad=\left(0,0,2\sqrt{2}\right)+k\left(\cos\theta,\sin\theta,-2\sqrt{2}\right)
 \qquad=\left(k\cos\theta,k\sin\theta,2\sqrt{2}(1-k)\right)

Qは平面 z=-2x+2上なので,代入して,
 2\sqrt{2}(1-k)=-2k\cos\theta+2
 k= \displaystyle\frac{\sqrt{2}-1}{\sqrt{2}-\cos\theta}


よって, {\rm AP}=\sqrt{1^{2}+(2\sqrt{2})^{2}}=3より,AQの長さは,
 {\rm AQ}=k{\rm AP}= \displaystyle\frac{3(\sqrt{2}-1)}{\sqrt{2}-\cos\theta}\cdots


円錐の側面を, \rm A {\rm B}(1,0,0)を結んだ線分のところから切り開いた展開図を考える.展開図の扇形の半径 3,弧の長さ 2\piなので,中心角の大きさは \displaystyle\frac{2}{3}\pi.下の展開図において, \angle{\rm BAP}=\varphiとすると, \stackrel{\Large\mbox{$\frown$}}{\rm BP}=\thetaなので, \theta=3\varphi

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求める面積 Sは,線分 \rm AQの通過範囲の面積なので,①から,
 S=\displaystyle\int_{0}^{\frac{2}{3}\pi}\displaystyle\frac{1}{2}{\rm AQ}^2 d\varphi=\displaystyle\int_{0}^{\frac{2}{3}\pi}\displaystyle\frac{1}{2}\left\{\displaystyle\frac{3(\sqrt{2}-1)}{\sqrt{2}-\cos\theta}\right\}^2 d\varphi
 \varphi=\displaystyle\frac{\theta}{3}なので, d\varphi=\displaystyle\frac{d\theta}{3}
また, \varphi: 0\to\displaystyle\frac{2}{3}\piのとき, \theta: 0\to2\pi
 S=\displaystyle\int_{0}^{2\pi}\displaystyle\frac{1}{2}\left\{\displaystyle\frac{3(\sqrt{2}-1)}{\sqrt{2}-\cos\theta}\right\}^2\displaystyle\frac{d\theta}{3}
 \qquad=3\left(3-2\sqrt{2}\right)\int_{0}^{2\pi}\displaystyle\frac{1}{2}\left(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-\cos\theta}\right)^2 d\theta

 \displaystyle\int_{0}^{2\pi}\displaystyle\frac{1}{2}\left(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-\cos\theta}\right)^2 d\thetaは,(1)の曲線 Cによって囲まれる面積である.よって,(1)から,
 S=3\left(3-2\sqrt{2}\right)\cdot \sqrt{2}\pi=\left(9\sqrt{2}-12\right)\pi

答え

(1)  \displaystyle\frac{(x-1)^2}{2}+y^2=1 \pi\cdot\sqrt{2}\cdot 1=\sqrt{2}\pi
(2)  S=\left(9\sqrt{2}-12\right)\pi

 

解説というか雑談

最初の着想

この問題は,「円錐の展開図上での直線は,円錐上で平面上に存在するのか」ということを考えてみたくて作った問題です.
イメージとしては,円錐の展開図の扇形に下図のように直線を引いてみて,それを円錐として組み立てたときに,空間上でこの線は平面に乗るような曲線になるのかということです.

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結論からいうと,空間上でこの線は平面に乗りません.この直線上から何点か選んで,それが空間内でどの座標になるかを調べてみれば,それらの点が全て乗るような平面は作れないことがすぐわかると思います.

これは,自分が高校生のとき,このような線が平面に乗るだろうとなんとなく安易に考えてしまって誤答してしまった経験から思いつきました.
確か,そのまま上図のような直線は円錐上で平面上に存在するかどうかを調べる問題だったと思いますが,平面に乗るという間違った結論を示そうとして,すごく苦労してしまったことを覚えています.
そうやって間違えた問題は結構記憶に残っているので,それを題材に何か議論できないかと考えてみました.

ただ,上図のような直線が円錐上に作る図形はちょっと難しくて,高校数学としてちょうどいい問題が思いつかなかったので「円錐を平面で切ったときに,その断面は展開図上で直線になるのかどうか」という問題に変えてみました.
今回の問題でわかると思いますが,平面で切った断面が解答の展開図のようにぐねぐねした曲線になります.
これが囲む面積を求めてみたら高校数学の計算としては難易度としてちょうどよかったので,このような問題になりました.
途中で,定積分被積分関数が楕円の極座標表示と同じような形をしていることを使う場面がありますが,応募者は楕円の極座標表示を知らない人もいると思ったので,気づいてもらえるように(1)を付け加えました.

(1)を使わない別解

ちなみに,(1)のように楕円の極座標表示を使わないやり方もありました.

 (2)

円錐の側面の方程式は,
 x^{2}+y^{2}=\left(1-\displaystyle\frac{z}{2\sqrt{2}}\right)^{2}
これと,平面 z=-2x+2の交線を考えると,
 x^{2}+y^{2}=\left(1-\displaystyle\frac{-2x+2}{2\sqrt{2}}\right)^{2}
 \therefore \left\{x-\left(\sqrt{2}-1\right)\right\}^{2}+2y^{2}=\left(2-\sqrt{2}\right)^{2}\cdots
円錐の側面と平面z=-2x+2の交線の xy平面への正射影は,②の方程式で表される楕円になる.この楕円を Dとする.

円錐の側面と平面 z=-2x+2の交線上に点 \rm Qをとり, \rm Qから xy平面に下ろした垂線の足を \rm Hとすると, \rm Q D上にある.円錐の母線と xy平面のなす角を \alphaとすると,母線の長さが 3なので, \cos\alpha=\displaystyle\frac{1}{3}

よって,求める面積 Sは,楕円 Dの面積の \displaystyle\frac{1}{\cos\alpha}=3倍. Dは長半径 2-\sqrt{2},短半径 \sqrt{2}-1なので,
 S=3\left(2-\sqrt{2}\right)\left(\sqrt{2}-1\right)\pi
 \qquad=\left(9\sqrt{2}-12\right)\pi

 
応募者の解答から,自分の想定していなかった解法があることを知れるのも,出題してみる面白さの一つですね.
 

あまり関係ない話

この年のセンター試験では,有名角でない角度( 144^{\circ})をラジアン表記に直す問題が出ていたと思います.有名角についてラジアン表記を暗記して,ラジアンへの変換をしていた受験生が多いらしく,「 144^{\circ}なんて覚えてない」みたいに話題になっていたような気がします.
そういう受験生は,今回の, \stackrel{\Large\mbox{$\frown$}}{\rm BP}=\thetaから \theta=3\varphiという関係を得るというのも,もしかしたらすぐに納得できないのかもしれないなあと思って,当時の解説ではそこらへんを丁寧めに書いたと思います.

学力コンテスト 2017年2月号4番

こんにちは.飜車魚です.

大学への数学(東京出版) 学力コンテストの添削とか解答・解説作成をしています.

前回に引き続き,学力コンテストに出題した問題について話をしていきたいと思います.

 

自分の出題した問題の話だけだと,結構すぐネタ切れになりそうなので,もう少し話題を広げていきたいですね.

 

 

 

今回の問題

さて,今回題材にしたい問題はこれです.

 c0 \lt c \lt 1を満たす実数とする. {\rm O}を原点とする座標平面上に, {\rm O}を中心とする半径1の円 Cと, {\rm O}を焦点の1つとする,長軸の長さ2,短軸の長さ 2\sqrt{1-c^2}の楕円 Dがある. Cの周および外側かつ Dの周および内側の領域の面積 Sが最大,最小になるときがあるならばそのときの cの値を求めよ.
(学力コンテスト2017年2月号 学力コンテスト4番)
 

これも私が作問した問題です.公式の解答は, 2017年3月号に掲載されています.

また,この問題は,考え抜く数学 理系編 ~学コンに挑戦~という問題集にも掲載されています.

 
  Sは下図のような領域の面積になります.問題では座標は設定してあるだけで, D \rm Oでない焦点がどこにあるかなどは設定しませんでしたが,例えば図のように Dの長軸が x軸と重なるように座標を設定してしまうと解きやすいと思います.

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楕円の性質を使えば, Dの方程式は求められると思います.
楕円は,2つの焦点からの距離の和が一定の点の集合というのが定義の一つですが,その和の値というのは長軸の長さと等しくなります.そのことを考えると, Dの中心から焦点までの距離が求められます.

ちなみに,問題に出てくる cというのは,楕円の離心率です.
離心率は英語でeccentricityなので,普通は頭文字 eを使うことが多いですが,高校数学で eを使うと,自然対数の底だと思う人がいそうなので, cにしておきました. cって eと形が似ていますし.

 

 解答

解答はこんな感じになります.

 円 Cの方程式は, x^2+y^2=1
また,楕円 Dの中心から焦点までの距離は,\sqrt{1^2 - (\sqrt{1-c^2})^2}=cなので, Dの方程式は,
 (x-c)^2+\displaystyle\frac{y^2}{1-c^2}=1
とできる.
 C Dの方程式から yを消去すると,
(x-c)^2+\displaystyle\frac{1-x^2}{1-c^2}=1
(1-c^2)(x-c)^2+1-x^2=1-c^2
 (x-c)(-c^2x+c^3-2c)=0
 \therefore x=c, c-\displaystyle\frac{2}{c}
 0\lt c\lt 1から, c-\displaystyle\frac{2}{c}\lt c-1なので, x=c-\displaystyle\frac{2}{c} C Dの交点の x座標としては不適.よって, C Dの交点は, \left( c,\pm\sqrt{1-c^2} \right)
従って, Sは図の網目部の面積であり,

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 S=(楕円Dの右半分)-(太線で囲まれた部分)
 \qquad=\pi\cdot 1\cdot \sqrt{1-c^2}\times\displaystyle\frac{1}{2} - 2\displaystyle\int_c^1 \sqrt{1-x^2}dx
 \qquad=\displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{1-c^2} - 2\displaystyle\int_c^1 \sqrt{1-x^2}dx
これを S(c)とおく.
 S'(c)=\displaystyle\frac{\pi}{2}\cdot\displaystyle\frac{-2c}{2\sqrt{1-c^2}}+2\sqrt{1-c^2}
 \qquad=\displaystyle\frac{-(4c^2+\pi c-4)}{2\sqrt{1-c^2} }
ここで, f(c)=-(4c^2+\pi c-4)とすると, S'(c) f(c)と同符号.
 f(c)のグラフは上に凸の2次関数になり,軸は c=-\displaystyle\frac{\pi}{8}\lt 0.また, f(0)=4\gt 0 f(1)=-\pi\lt 0.よって, f(c)=0となる cは, 4c^2+\pi c-4=0の正の解 c=\displaystyle\frac{-\pi+\sqrt{\pi^2+64}}{8}のみ.
以上より, S(c)の増減表は下表のようになる.

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従って, Sが最大となるとき, c=\displaystyle\frac{-\pi+\sqrt{\pi^2+64}}{8}で,最小になるときはない.

答え

 Sが最大となるとき, c=\displaystyle\frac{-\pi+\sqrt{\pi^2+64}}{8}

 Sが最小となるときはない.

 

解説というか雑談

最初の着想

この問題は,円 Cと楕円Dが登場しますが, Cの直径とDの長軸の長さが同じで,Cの中心とDの焦点の一つが一致しています.
楕円の長軸の長さの半分を長半径と言ったりしますが,円は楕円の2つの焦点が一致したものと捉えることもできるので, CDは焦点の一つと長半径が等しいわけです.

惑星の軌道に関する法則で,ケプラーの第一法則(楕円の法則)というものがあります.
この法則は,ある惑星系について,中心星の周りを公転している天体は全て,中心星を焦点の一つとする楕円軌道を描いて公転するということを言っています.

また,ケプラーの第三法則(調和の法則)というものもあります.
この法則は,ある惑星系について,中心星の周りを公転している天体の公転軌道は,軌道の楕円の長半径で決まるということを言っています.
詳しく言うと,公転軌道の楕円の長半径 aと公転周期 Tについて, a^3/T^2が一定になります.この a^3/T^2の値は中心星の質量によって決まります.

以上を考えると,焦点の一つと長半径が等しい楕円どうしというのは,ある惑星系において,公転周期が等しい天体の軌道と捉えられるわけです.

 

私は専攻しているのが惑星科学で,研究分野は惑星系形成論ですから,シミュレーションなどで,中心星の周りを公転するたくさんの天体を取り扱うことがよくあります.
ケプラーの第三法則から,軌道長半径が等しい天体は同じ公転周期で中心星の周りを回るわけですが,公転周期が同じでも,楕円の離心率の違いによって軌道の形状は結構違いますよね.
離心率を変えていくと,楕円軌道は同じ公転周期の円軌道からどれくらいずれていくのかなとなんとなく図示してみたときに,これのどこかの面積を求めてみたらちょうどいい問題になるんじゃないかと思ったことが作問のきっかけでした.

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今回の問題で求めた面積 Sは,楕円の離心率が0に近いときは楕円が円とほぼ一致するわけですからほぼ0となり,離心率が1に近いときは楕円がほぼ線分になるのでほぼ0となる,ということがすぐ分かるので,離心率が0から1へ変化するときに,その途中のどこかで Sは最大値をとるはずです.それを求めさせたら面白いかなと思って,この問題を作りました.
求めてみたら,そのときの離心率は \piを含んだ変な値になったので,それも面白いかなと思って出題しました.
方程式の解として \piを含んだ式が出てくるというのは,あまりみないなあと思います.

 

編集部の配慮?

前述の通り, S 0\lt c\lt 1のとき最大値をとることが分かるので,そのときの cを求めさせる問題にしました.
ただ,見ての通り,問題文は「 Sが最大,最小になるときがあるならばそのときの cの値を求めよ」となっていて,なんだか最小値もありそうな書き方になっていますね.これにはちょっとした理由があります.


解答では,積分 Sを求めましたが,下図のように, CDの交点を \rm P \rm Qのようにおいて, x軸と \rm OPのなす角を \thetaとおくと, S \thetaで表すことができます.

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 S=(楕円の右半分)+\bigtriangleup{\rm OPQ}-扇型{\rm OPQ}
 \qquad=\displaystyle\frac{1}{2}\left(\pi\sqrt{1-c^2}+\sin 2\theta-2\theta \right)
\qquad=\displaystyle\frac{1}{2}\left(\pi\sin\theta+\sin 2\theta-2\theta \right)

これを S(\theta)とおいて, \theta微分すると,

S'(\theta)=\displaystyle\frac{1}{2}\left(\pi\cos\theta+2\cos 2\theta-2 \right)
\qquad=\displaystyle\frac{1}{2}\left(4\cos^2\theta+\pi\cos\theta-4 \right)

となり,解答と同じように増減表をかくことで, Sが最大となるときの \cos\theta (=c)を求めることができます.

 

しかし,ここで, \cos\theta=cであることを使って,

S'(\theta)=\displaystyle\frac{1}{2}\left(4c^2+\pi c-4 \right)

と表して何も考えず増減表をかくと,こんな増減表をかいてしまいそうですよね.

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これだと,増減がひっくり返ってしまいます.
正しくは,増減表の一番上の段は cでなく \thetaでかかないといけません.
 c\ (=\cos\theta)の増減と \thetaの増減が逆なのでこういうことが起こります.

 

私が作問したときには,「 Sが最大となるときの cの値を求めよ」という問題文でした.
しかし,学力コンテストの応募者にはきっと上記のような間違いが多いだろうと予想した編集部の方が,上記のような増減表をかいてしまって「 Sが最小になるときの cしか求められない…」となってしまった応募者も安心して(?)応募できるようにと配慮して,「 Sが最大,最小になるときがあるならばそのときの cの値を求めよ」というように問題文に変更してくださったわけです.

「最大値なし」というのも立派な答えではありますが,実際,試験で求めるべきものが「なし」ということになるとすごく不安になりますよね.
そういう不安を取り除いてくれる優しい配慮なのかもしれません.
 

あまり関係ない話

自分が出題した問題は基本的に自分が解説を担当することになります.
それ以外の問題は,解説担当者が希望した問題が割り当てられますが,希望が被ったときにはあみだくじで決めます.
現在解説担当は3人いて,2問ずつ担当していますが,3人が無作為に希望する問題を選んだ時に希望が被らない確率を求めるような問題が学力コンテストで出題されていたと思います.

 

学力コンテスト 2018年5月号 5番

初めまして.飜車魚です.

宇宙科学研究所というところで大学院生をやっています.
この度,JAXA学生 Advent Calendar 2020という企画にお誘いいただき,記事を書くことになりました.

大学院の研究以外では,大学への数学(東京出版)という大学受験生向けの数学月刊誌で,学力コンテストという問題の添削(学コンマン)とか,解答・解説の作成のアルバイトをやっています.たまに作問もやります.
ここでは,そういった高校数学についての話題で記事を書いてみたいと思います.
毎月,学力コンテストの解答・解説を執筆しているわけですが,基本的には解き方の解説なので,作問するに至った着想であるとか,背景のような雑談の話題はあまり書く機会がないなあと思って,これを機に,ブログを開設してみました.続けばいいなあ.

 

注意事項 ここに掲載する学力コンテストの解答はあくまで私個人が作成するものであり,東京出版とは関係ありません.東京出版編集部の校正を経た公式の解答は,大学への数学本誌や,学力コンテストの返送答案に同封されるプリントでお確かめください.

大学への数学本誌は,東京出版WEBなどから購入できます.

 

 

今回の問題

さて,前置きが長くなりましたが,今回題材にする問題を紹介しましょう.

\rm Oを原点とするxy平面上に,点\rm P_0(1,0)\rm Q(0,1)をとる.1以上の整数nに対して,点{\rm P}_nを,{\rm P}_{n-1}を通る{\rm OP}_{n-1}の垂線と\angle{\rm P}_{n-1}{\rm OQ}の二等分線の交点が{\rm P}_{n}となるように定める.\angle{\rm P}_{n}{\rm O}{\rm P}_{n+1}=\theta_nとする.
(1) 線分{\rm OP}_{n}の長さをr_{n}とする.r_nnで表し,\displaystyle\lim_{n\to\infty}r_nを求めよ.
(2) \bigtriangleup{\rm OP}_n{\rm P}_{n+1}の面積をS_{n}とする.\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\theta_n S_{n}を求めよ.
(大学への数学2018年5月号 学力コンテスト5番)
 
 私が作って出題した問題です.公式の解答は大学への数学2018年7月号に掲載されています.
 
{\rm P}_0{\rm P}_1{\rm P}_2,…は下図のような決まり方になります.

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{r_n}の漸化式はすぐ立つと思います.漸化式を解く部分が少しテクニカルかもしれませんが,いろいろ式変形を試せば大丈夫でしょう.

 解答

とりあえず,解答をみてみましょう.

(1)
まず, \theta_{n}=\displaystyle\frac{\pi}{2^{n+2}}
以下, n \lt 0についても, \theta_{n}=\displaystyle\frac{\pi}{2^{n+2}}とおく.

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 {\rm OP}_{n}\perp{\rm P}_{n}{\rm P}_{n+1}より, r_{n+1}=\displaystyle\frac{r_n}{\cos\theta_{n}}\cdots

ここで, \theta_{n-1}=2\theta_{n}から,2倍角の公式を用いて, \sin\theta_{n-1}=2\sin\theta_{n}\cos\theta_{n}
\therefore\displaystyle\frac{1}{\cos\theta_{n}}=\displaystyle\frac{2\sin\theta_{n}}{\sin\theta_{n-1}}
よって,①は,
r_{n+1}=\displaystyle\frac{2\sin\theta_{n}}{\sin\theta_{n-1}}r_n\
\therefore\displaystyle\frac{r_{n+1}}{2^{n+1}\sin\theta_{n}}=\displaystyle\frac{r_n}{2^n\sin\theta_{n-1}}

これを繰り返し用いて,
\displaystyle\frac{r_n}{2^n\sin\theta_{n-1}}=\cdots=\displaystyle\frac{r_0}{2^{0}\sin\theta_{-1}}=\displaystyle\frac{1}{\sin\displaystyle\frac{\pi}{2}}=1
 \therefore r_n=2^{n}\sin\theta_{n-1} =2^{n}\sin\left(\displaystyle\frac{\pi}{2^{n+1}}\right)

従って,
 \displaystyle\lim_{n\to\infty}r_n=\lim_{n\to\infty}2^{n}\sin\left(\displaystyle\frac{\pi}{2^{n+1}}\right)
\qquad=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\displaystyle\frac{\pi}{2}\cdot\displaystyle\frac{\sin\left(\displaystyle\frac{\pi}{2^{n+1}}\right)}{\displaystyle\frac{\pi}{2^{n+1}}}
\qquad=\displaystyle\frac{\pi}{2}

 

(2)
 r_{n}=2^{n}\sin\theta_{n-1}なので,
 \theta_{n}S_{n}=\theta_{n}\cdot\displaystyle\frac{1}{2}r_{n}r_{n+1}\sin\theta_{n}
\qquad =\displaystyle\frac{\pi}{2^{n+2}}\cdot\displaystyle\frac{1}{2}\cdot 2^{n}\sin\theta_{n-1} \cdot 2^{n+1}\sin\theta_{n}\cdot \sin\theta_{n}
 \qquad =2^{n-2} \pi\sin\theta_{n-1} \sin^{2}\theta_{n}
 \qquad =2^{n-3} \pi\sin\theta_{n-1} \left( 1-\cos\theta_{n-1}\right)
\qquad =2^{n-4} \pi\left(2\sin\theta_{n-1}-2\sin\theta_{n-1}\cos\theta_{n-1}\right)
 \qquad=\displaystyle\frac{\pi}{16}\left(2^{n+1}\sin\theta_{n-1}-2^{n}\sin\theta_{n-2}\right)
よって, mを整数として,
 \displaystyle\sum_{n=0}^{m}\theta_{n}S_{n}=\displaystyle\displaystyle\frac{\pi}{16}\displaystyle\sum_{n=0}^{m}\left(2^{n+1}\sin\theta_{n-1}-2^{n}\sin\theta_{n-2}\right)
 \qquad=\displaystyle\frac{\pi}{16}\left(2^{m+1}\sin\theta_{m-1}-2^{0}\sin\theta_{-2}\right)
 \qquad=\displaystyle\frac{\pi}{16}\left\{2^{m+1}\sin\left(\displaystyle\frac{\pi}{2^{m+1}}\right)-\sin\pi\right\}
 \qquad=\displaystyle\frac{\pi}{16}\cdot 2^{m+1}\sin\left(\displaystyle\frac{\pi}{2^{m+1}}\right)

従って,
 \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\theta_{n}S_{n}=\displaystyle\lim_{m\to\infty}\sum_{n=0}^{m}\theta_{n}S_{n}
 \qquad=\displaystyle\lim_{m\to\infty}\displaystyle\frac{\pi}{16}\cdot 2^{m+1}\sin\left(\displaystyle\frac{\pi}{2^{m+1}}\right)
 \qquad=\displaystyle\lim_{m\to\infty}\displaystyle\frac{\pi^{2}}{16}\displaystyle\frac{\sin\left(\displaystyle\frac{\pi}{2^{m+1}}\right)}{\displaystyle\frac{\pi}{2^{m+1}}}
\qquad=\displaystyle\frac{\pi^{2}}{16}

答え

(1)  r_n=2^{n}\sin\left(\displaystyle\frac{\pi}{2^{n+1}}\right) \displaystyle\lim_{n\to\infty}r_n=\displaystyle\frac{\pi}{2}

(2)  \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\theta_{n}S_{n}=\displaystyle\frac{\pi^{2}}{16}

解説というか雑談

最初の着想

これは,ヴィエトの無限積の公式というやつをみていて作った問題です.ヴィエトの無限積の公式というのは,

 \displaystyle\prod_{n=1}^{\infty}\cos\left(\displaystyle\frac{x}{2^n}\right)=\displaystyle\frac{\sin x}{x}

というようなやつです.これは, \sinの2倍角の公式から,\cos\left(\displaystyle\frac{x}{2^n}\right) = \displaystyle\frac{\sin\left(\displaystyle\frac{x}{2^{n-1}}\right)}{2\sin\left(\displaystyle\frac{x}{2^n}\right)} が分かるので,
上記の解答と同じように, n=1,2,3,…の式をかけていけば証明できます.当時の解説では,この公式から円周率を近似するやり方を紹介したかもしれません.

これを何か図形的な問題に帰着できないかなとか考えていたらこんな問題になりました.

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 nが大きくなっていくと {\rm P}_n y軸に近づいていきます. {\rm P}_\infty\left(0,\displaystyle\frac{\pi}{2}\right)としておくと, \displaystyle\lim_{n\to\infty}r_n=\displaystyle\frac{\pi}{2}となることから, n\to\inftyのとき {\rm P}_n {\rm P}_\inftyに近づいていくことになります.
 
ヴィエトの公式からうまいこと図形の問題にできたので,学力コンテストとかに出題してみたいと思っていたのですが,(1)だけだとヴィエトの公式を知っている人はすぐ解けてしまうつまらない問題になってしまうので,この図形から他に何か求められそうなことを探して,(2)を作りました.
 

(2)を考えたときの着想

まず,(2)で求めるものとして最初に考えたのは,上図の色をつけた部分の面積です.つまり, \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}S_{n}です.
上図をみると,面積は収束していそうなので,それを求める問題にしてみようと思っていました.
しかし,実際計算してみると収束値は計算で求められそうにありませんでした.まあ,やはり無限級数が収束値を手計算で求められる形に偶然変形できるなんてことはそうそうあるわけはないということですよね.
ちなみに,Wolfram Alphaで,この面積の近似値を計算してみると,1.388くらいのようです.
 
ただ,いろいろ式変形を試行錯誤しているなかで,「これ各項の S_{n} 2^nで割れば収束値計算できそう」みたいなことに気づきました.
まあ,そうするともう面積のような図形的意味を持たせることは難しいのですが,各項の S_{n} \theta_nをかけて, \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\theta_nS_{n}を求めるという問題にすると,そんなに見た目も悪くなかったので,これで出題することにしました.
 
そういうわけで,(2)は,もとからこんなうまい変形ができることを目論んでいたわけではないのですが,いろいろ考えてみるとこういうこともあるみたいです.
作っているときも楽しい問題でした.

 

あまり関係ない話

初めてはてなブログで書きましたが, \TeX記法が使えて便利ですね.