日日の雑談

大学への数学の話題が多めの雑談Blog(予定)

学力コンテスト 2017年2月号4番

こんにちは.飜車魚です.

大学への数学(東京出版) 学力コンテストの添削とか解答・解説作成をしています.

前回に引き続き,学力コンテストに出題した問題について話をしていきたいと思います.

 

自分の出題した問題の話だけだと,結構すぐネタ切れになりそうなので,もう少し話題を広げていきたいですね.

 

 

 

今回の問題

さて,今回題材にしたい問題はこれです.

 c0 \lt c \lt 1を満たす実数とする. {\rm O}を原点とする座標平面上に, {\rm O}を中心とする半径1の円 Cと, {\rm O}を焦点の1つとする,長軸の長さ2,短軸の長さ 2\sqrt{1-c^2}の楕円 Dがある. Cの周および外側かつ Dの周および内側の領域の面積 Sが最大,最小になるときがあるならばそのときの cの値を求めよ.
(学力コンテスト2017年2月号 学力コンテスト4番)
 

これも私が作問した問題です.公式の解答は, 2017年3月号に掲載されています.

また,この問題は,考え抜く数学 理系編 ~学コンに挑戦~という問題集にも掲載されています.

 
  Sは下図のような領域の面積になります.問題では座標は設定してあるだけで, D \rm Oでない焦点がどこにあるかなどは設定しませんでしたが,例えば図のように Dの長軸が x軸と重なるように座標を設定してしまうと解きやすいと思います.

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楕円の性質を使えば, Dの方程式は求められると思います.
楕円は,2つの焦点からの距離の和が一定の点の集合というのが定義の一つですが,その和の値というのは長軸の長さと等しくなります.そのことを考えると, Dの中心から焦点までの距離が求められます.

ちなみに,問題に出てくる cというのは,楕円の離心率です.
離心率は英語でeccentricityなので,普通は頭文字 eを使うことが多いですが,高校数学で eを使うと,自然対数の底だと思う人がいそうなので, cにしておきました. cって eと形が似ていますし.

 

 解答

解答はこんな感じになります.

 円 Cの方程式は, x^2+y^2=1
また,楕円 Dの中心から焦点までの距離は,\sqrt{1^2 - (\sqrt{1-c^2})^2}=cなので, Dの方程式は,
 (x-c)^2+\displaystyle\frac{y^2}{1-c^2}=1
とできる.
 C Dの方程式から yを消去すると,
(x-c)^2+\displaystyle\frac{1-x^2}{1-c^2}=1
(1-c^2)(x-c)^2+1-x^2=1-c^2
 (x-c)(-c^2x+c^3-2c)=0
 \therefore x=c, c-\displaystyle\frac{2}{c}
 0\lt c\lt 1から, c-\displaystyle\frac{2}{c}\lt c-1なので, x=c-\displaystyle\frac{2}{c} C Dの交点の x座標としては不適.よって, C Dの交点は, \left( c,\pm\sqrt{1-c^2} \right)
従って, Sは図の網目部の面積であり,

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 S=(楕円Dの右半分)-(太線で囲まれた部分)
 \qquad=\pi\cdot 1\cdot \sqrt{1-c^2}\times\displaystyle\frac{1}{2} - 2\displaystyle\int_c^1 \sqrt{1-x^2}dx
 \qquad=\displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{1-c^2} - 2\displaystyle\int_c^1 \sqrt{1-x^2}dx
これを S(c)とおく.
 S'(c)=\displaystyle\frac{\pi}{2}\cdot\displaystyle\frac{-2c}{2\sqrt{1-c^2}}+2\sqrt{1-c^2}
 \qquad=\displaystyle\frac{-(4c^2+\pi c-4)}{2\sqrt{1-c^2} }
ここで, f(c)=-(4c^2+\pi c-4)とすると, S'(c) f(c)と同符号.
 f(c)のグラフは上に凸の2次関数になり,軸は c=-\displaystyle\frac{\pi}{8}\lt 0.また, f(0)=4\gt 0 f(1)=-\pi\lt 0.よって, f(c)=0となる cは, 4c^2+\pi c-4=0の正の解 c=\displaystyle\frac{-\pi+\sqrt{\pi^2+64}}{8}のみ.
以上より, S(c)の増減表は下表のようになる.

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従って, Sが最大となるとき, c=\displaystyle\frac{-\pi+\sqrt{\pi^2+64}}{8}で,最小になるときはない.

答え

 Sが最大となるとき, c=\displaystyle\frac{-\pi+\sqrt{\pi^2+64}}{8}

 Sが最小となるときはない.

 

解説というか雑談

最初の着想

この問題は,円 Cと楕円Dが登場しますが, Cの直径とDの長軸の長さが同じで,Cの中心とDの焦点の一つが一致しています.
楕円の長軸の長さの半分を長半径と言ったりしますが,円は楕円の2つの焦点が一致したものと捉えることもできるので, CDは焦点の一つと長半径が等しいわけです.

惑星の軌道に関する法則で,ケプラーの第一法則(楕円の法則)というものがあります.
この法則は,ある惑星系について,中心星の周りを公転している天体は全て,中心星を焦点の一つとする楕円軌道を描いて公転するということを言っています.

また,ケプラーの第三法則(調和の法則)というものもあります.
この法則は,ある惑星系について,中心星の周りを公転している天体の公転軌道は,軌道の楕円の長半径で決まるということを言っています.
詳しく言うと,公転軌道の楕円の長半径 aと公転周期 Tについて, a^3/T^2が一定になります.この a^3/T^2の値は中心星の質量によって決まります.

以上を考えると,焦点の一つと長半径が等しい楕円どうしというのは,ある惑星系において,公転周期が等しい天体の軌道と捉えられるわけです.

 

私は専攻しているのが惑星科学で,研究分野は惑星系形成論ですから,シミュレーションなどで,中心星の周りを公転するたくさんの天体を取り扱うことがよくあります.
ケプラーの第三法則から,軌道長半径が等しい天体は同じ公転周期で中心星の周りを回るわけですが,公転周期が同じでも,楕円の離心率の違いによって軌道の形状は結構違いますよね.
離心率を変えていくと,楕円軌道は同じ公転周期の円軌道からどれくらいずれていくのかなとなんとなく図示してみたときに,これのどこかの面積を求めてみたらちょうどいい問題になるんじゃないかと思ったことが作問のきっかけでした.

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今回の問題で求めた面積 Sは,楕円の離心率が0に近いときは楕円が円とほぼ一致するわけですからほぼ0となり,離心率が1に近いときは楕円がほぼ線分になるのでほぼ0となる,ということがすぐ分かるので,離心率が0から1へ変化するときに,その途中のどこかで Sは最大値をとるはずです.それを求めさせたら面白いかなと思って,この問題を作りました.
求めてみたら,そのときの離心率は \piを含んだ変な値になったので,それも面白いかなと思って出題しました.
方程式の解として \piを含んだ式が出てくるというのは,あまりみないなあと思います.

 

編集部の配慮?

前述の通り, S 0\lt c\lt 1のとき最大値をとることが分かるので,そのときの cを求めさせる問題にしました.
ただ,見ての通り,問題文は「 Sが最大,最小になるときがあるならばそのときの cの値を求めよ」となっていて,なんだか最小値もありそうな書き方になっていますね.これにはちょっとした理由があります.


解答では,積分 Sを求めましたが,下図のように, CDの交点を \rm P \rm Qのようにおいて, x軸と \rm OPのなす角を \thetaとおくと, S \thetaで表すことができます.

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 S=(楕円の右半分)+\bigtriangleup{\rm OPQ}-扇型{\rm OPQ}
 \qquad=\displaystyle\frac{1}{2}\left(\pi\sqrt{1-c^2}+\sin 2\theta-2\theta \right)
\qquad=\displaystyle\frac{1}{2}\left(\pi\sin\theta+\sin 2\theta-2\theta \right)

これを S(\theta)とおいて, \theta微分すると,

S'(\theta)=\displaystyle\frac{1}{2}\left(\pi\cos\theta+2\cos 2\theta-2 \right)
\qquad=\displaystyle\frac{1}{2}\left(4\cos^2\theta+\pi\cos\theta-4 \right)

となり,解答と同じように増減表をかくことで, Sが最大となるときの \cos\theta (=c)を求めることができます.

 

しかし,ここで, \cos\theta=cであることを使って,

S'(\theta)=\displaystyle\frac{1}{2}\left(4c^2+\pi c-4 \right)

と表して何も考えず増減表をかくと,こんな増減表をかいてしまいそうですよね.

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これだと,増減がひっくり返ってしまいます.
正しくは,増減表の一番上の段は cでなく \thetaでかかないといけません.
 c\ (=\cos\theta)の増減と \thetaの増減が逆なのでこういうことが起こります.

 

私が作問したときには,「 Sが最大となるときの cの値を求めよ」という問題文でした.
しかし,学力コンテストの応募者にはきっと上記のような間違いが多いだろうと予想した編集部の方が,上記のような増減表をかいてしまって「 Sが最小になるときの cしか求められない…」となってしまった応募者も安心して(?)応募できるようにと配慮して,「 Sが最大,最小になるときがあるならばそのときの cの値を求めよ」というように問題文に変更してくださったわけです.

「最大値なし」というのも立派な答えではありますが,実際,試験で求めるべきものが「なし」ということになるとすごく不安になりますよね.
そういう不安を取り除いてくれる優しい配慮なのかもしれません.
 

あまり関係ない話

自分が出題した問題は基本的に自分が解説を担当することになります.
それ以外の問題は,解説担当者が希望した問題が割り当てられますが,希望が被ったときにはあみだくじで決めます.
現在解説担当は3人いて,2問ずつ担当していますが,3人が無作為に希望する問題を選んだ時に希望が被らない確率を求めるような問題が学力コンテストで出題されていたと思います.